デジタルアーキビストとは? 資格や活躍の場も紹介

デジタルアーキビストという職業をご存知でしょうか。

図書館司書や博物館学芸員と比べるとまだまだ認知度が低いかもしれませんが、急速なデジタル技術の発達やインフラの普及にともないデジタルアーカイブというものの重要性が高まっている現在、徐々に注目があつまっている職業です。

今回はデジタルアーキビストの仕事の内容や、その活躍の場について詳しくご紹介します。

アーカイブとデジタルアーカイブって何?

デジタルアーキビストとは、一言でいえば文化資源であるデジタルアーカイブを記録・保存・管理するプロフェッショナルのことです。まずはデジタルアーキビストが扱うことになる、アーカイブやデジタルアーカイブについて簡単にご説明します。

「アーカイブ」の意味

資料群

そもそもアーカイブって何だろうと思う人は多いでしょう。聞いたことはあるけど、いまいち意味がわからないのが「アーカイブ」という言葉ではないでしょうか。

アーカイブ、または複数形のアーカイブズという言葉が使われていますが、古文書や公文書、記録文書の集合、もしくはそうした文書を保管する場所、というのが本来の意味です。言い換えると、貴重で文化的な価値があり、保存すべき資料はすべてアーカイブであり、また公文書館のような保存機関もアーカイブと呼ばれる場合があります。

「デジタルアーカイブ」の意味

デバイスと書庫

次にデジタルアーカイブについて説明します。

「アーカイブ」に「デジタル」をつけた「デジタルアーカイブ」は、実は日本で生まれた和製英語です。1996年に日本で設立された「デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)」の準備会議の中で、当時東京大学教授であった月尾嘉男氏が初めて提案したものだとされています

古文書や公文書、記録文書といったアーカイブをデジタル化したものがデジタルアーカイブですが、それだけにとどまらず、出版物、文化財、その他歴史資料等、有形・無形を問わずあらゆる知的資産を対象としている点が特徴です。デジタル情報の形で知的資産を記録し、その情報をデータベース化して管理、さらにネットワーク技術を用いて広く公開し活用することが、デジタルアーカイブの役割です。

デジタル化されていないアーカイブは現物資料であるため、保管している機関でしか目にすることができません。それに、貴重な資料や古くてぜい弱な資料はいつでも公開されているわけではありません。しかしデジタルアーカイブであれば、いつでも、どこでも、誰でも自由にその情報を見たり、活用したり、研究したりすることができます。これがアーカイブをデジタル化することの一番のメリットと言えるでしょう。

用途や媒体に応じてデータの形式を使い分けることも簡単になり、情報の発信や共有という点でも大きなメリットがあります。

アーカイブとして保存されている文化財や文化資産、たとえば古文書などの紙資料、写真や映像を記録したフィルムなどは、経年によって劣化が進行していくことが避けられませんが、一度デジタル化してしまえば、文字も画像も映像も音声も劣化することがありません。アーカイブを未来に遺すための手段としてもデジタルアーカイブは重要な役割を果たしているのです。

なお、デジタルアーカイブについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

デジタルアーキビストとは

それでは次にデジタルアーキビストの仕事の内容を解説します。

デジタルアーキビストとは、アーカイブのデジタル化についての知識と技能を持ち、総合的な文化情報の管理・活用をする専門家のことです。と言っても、これではなんだかよく分かりませんよね。

デジタルアーキビストに求められる3つの能力

デジタルアーキビストのイメージ

デジタルアーキビストに求められる能力を整理すると次の3つが挙げられます。

  1. 資料の文化的価値の理解
  2. デジタル化の技術
  3. 法的理解と倫理

ひとつずつ具体的に説明しましょう。

1. 資料の文化的価値の理解

最初に説明した通り、アーカイブとは貴重で文化的な価値があり、保存すべき資料のことです。デジタル化にあたっては、その資料の価値を正しく認識するための、幅広い知識と専門分野の深い知識がデジタルアーキビストには必要とされます。さらに言えば、そのアーカイブを公開することにどんな意味があるのか、それがどんな文化活動につながるのか、といった視野も求められます。

2. デジタル化の技術

デジタルアーキビストには、有形・無形の貴重な資料をデジタル化し、デジタルアーカイブを作成する能力が当然ながら必要となります。どのような機材(デジタルカメラ、スキャナなど)を使うのか、そしてどのようなシステムでデータベース化していくのかを適切に判断する能力ですね。

デジタル技術は日々急速に進歩しています。ですから、そうした技術に関する新しい情報を積極的に学び続ける意欲が大事になります。

3. 法的理解と倫理

デジタルアーカイブを作成すると言っても、何でもかんでもすべてデジタル化して公開すればいいわけではありません。

デジタル化の対象となる有形・無形の文化資産には、複製する権利、上演する権利、展示する権利などを含む著作権(知的財産権)があります。その他にも個人情報保護法に基づき、著作者のプライバシーに配慮する必要もあります。インターネットやマルチメディアの普及にともない、現行の著作権法ではカバーできない事例が増えてきています。そうした課題に対し、デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)の制定が進んでいます。著作権法も改正されていくでしょうから、情報を常にアップデートしていく必要があります。

デジタルアーキビストには、こうした流動的な法の理解と倫理観念を踏まえた上でデジタルアーカイブを作成・公開することが求められるのです。

なかなか高度な専門職だということが想像できますよね。

日本におけるデジタルアーキビストの資格

勉強のイメージ

博物館・美術館の学芸員や図書館の司書は、国家資格ですが、デジタルアーキビストにこれに相当する国家資格はいまのところありません。ただし、特定非営利活動法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構によって認定される「デジタル・アーキビスト資格」があります。

資格は次の4つに分かれています。

  • 上級デジタル・アーキビスト
  • デジタル・アーキビスト
  • 準デジタル・アーキビスト
  • デジタルアーカイブクリエータ

それぞれの資格について、日本デジタル・アーキビスト資格認定機構は次のような説明をしています。

上級デジタル・アーキビスト

【デジタルアーカイブの計画と指導能力のある者】

関連する技術・法律等について主体的に学び続けコンテンツの活用方法を追求するとともに、デジタル・アーキビストとしての能力をもって計画から利用までの指導ができる高度な専門性をもつ人材。

デジタル・アーキビスト

【デジタルアーカイブ制作能力のある者】

準デジタル・アーキビストとしての能力を基礎として一連のデジタルアーカイブの制作・実施ができ、運営も含めて責任をもって対処できる専門性をもつ人材。

準デジタル・アーキビスト

【基本的なデジタルアーカイブ制作能力のある者】

文化・産業資源等に対し、情報の収集・登録・保存・管理・流通等の知識に加え権利処理等の能力をもち、情報提供等に責任をもって対処できる人材。

デジタルアーカイブクリエータ

【基礎的なデジタルアーカイブの作成能力のある者】

文化・産業資源等に対し、情報の収集・登録・保存・管理・流通等の基本的な知識をもち、撮影・記録の作業を行える人材。

具体的な資格取得方法は、2つあります。

一つは、認定養成機関として定められた短大、大学、大学院で必要な単位を取得した上で、日本デジタル・アーキビスト資格認定機構が行う認定試験に合格すること。デジタルアーカイブについて学べる大学については、次に詳しく説明します。

もう一つは、認定養成機関で行われる講習会を受講し、認定試験に合格することです。

4つの資格のうち、準デジタル・アーキビストとデジタルアーカイブクリエータであれば、2日間の講習会(社会人に対しては1日コースもあり)と試験だけで取得可能です。これなら仕事をしながらでも、できそうですよね。

そして準デジタル・アーキビスト資格を取得すれば、大学卒業者であれば3年の社会経験で、短大や専門学校の卒業者であれば5年の社会経験で、さらに上のデジタル・アーキビスト資格取得のための講習会に参加することが可能になります。この講習会は土日を中心とした合計5日間の授業と在宅での学習の後に試験を行うもので、資格取得までに1ヶ月~3ヶ月ほどかかります。

上級デジタル・アーキビスト資格は講習会では取得できず、かならず大学院で必要な単位を取得することが最低条件となります。

デジタルアーカイブの勉強ができる学部

大学

デジタルアーキビスト資格取得のための授業が設けられている認定要請機関としては、次の大学があります。

デジタルアーキビスト資格の取得に必要な単位は、必須科目10単位と選択科目2単位、選択分野22単位で合計34単位です。

必須科目の主な内容は、デジタルアーカイブ文化論、デジタルアーカイブメディア論、計画と資料の収集、デジタルアーカイブ選定評価、保存とメタデータです。

選択科目は、デジタルアーカイブ実践、デジタルアーカイブ活用と評価などです。選択分野の科目は、デジタルアーカイブと教育、デジタルアーカイブと博物館、デジタルアーカイブと図書館、デジタルアーカイブ活用と観光、デジタルアーカイブと提示、デジタルアーカイブと収集、といった内容です。

さて、日本デジタル・アーキビスト資格認定機構によって養成機関に認定されている大学を挙げましたが、養成機関以外でもアーキビストを目指す人のために授業を開講している大学はあります。前述の通り、デジタルアーキビストの資格はいまのところ図書館司書や博物館学芸員のように国家資格ではないため、資格を持っていなくてもデジタルアーキビストとして活躍することができます。

大学や大学院でアーカイブズ学、図書館学、図書館情報学、歴史学、政治学、法学、記録管理学、コンピュータ・サイエンス学などを学び、さらに現場で経験を積んでデジタルアーキビストになるというケースが多いようですね。ですから資格取得だけにこだわらず、自分に合った大学を選ぶのもオススメです。

次にアーカイブ関係の学問を学ぶことができる主な大学(大学院)を挙げておきます。

さて、ここまではデジタルアーキビストを目指すための大学選びという観点でお話をしましたが、デジタルアーキビストは扱う資料に対する深い専門知識が求められるため、往々にしてもともとその資料を所蔵していた図書館の司書や美術館の学芸員が、アーカイブに関する知識を補強して実質的にデジタルアーキビストとしての役割も果たすという例が少なくありません。

こうした現職者を対象として次のようなアーキビスト養成研修も行われています。

これらはデジタルアーキビストに限定した講習ではありませんが、いまはアーキビストと言えばデジタル化が前提ですから実質デジタルアーキビストのための講習と考えてもいいでしょう。

デジタルアーキビストが活躍する場

それでは最後にデジタルアーキビストが実際にどのような場所で活躍しているのかをご説明します。

デジタルアーカイブ先進国の欧米

デジタルアーキビスト

日本国内の話をする前に、アーカイブ先進国である欧米の話をしましょう。

イギリスでは、ヒラリー・ジェンキソンという人が著した『アーカイブ管理の手引き(Manual of Archive Administration)』という書籍の出版が、専門職としてのアーキビスト誕生のきっかけだったと言われています。その本の出版年は、なんと1922年です。日本が大正時代の頃から、イギリスではアーカイブの概念が生まれていたということですから驚きです。

そして1956年にT.R.シェレンバーグが著した『近代のアーカイブス(Modern Archives)』では、よりアーキビストの職務内容が明確化され、欧米においてはアーキビストという職業が確立されました

現在アメリカやイギリスでは、アーキビスト協会が、アーキビスト資格認定やアーキビスト養成課程におけるガイドラインを策定していて、その内容にはデジタル化技術の習得もきちんと組み込まれています。

そして各自治体、団体、企業、教育機関には、当然のように専門職としてのアーキビストがきちんと配置されています。官公庁や大企業ではなく、中小規模の自治体や会社にもアーカイブの部署があり、必ずアーキビストがいるという点は日本とは大きな開きがあります。アメリカでは現在アーカイブ関連の仕事についている人の数が6,000人を超えると言われています。

欧米の企業で活躍するアーキビストは、企業の歴史をアーカイブとして整理、デジタル化して保管し、さらにそれを公開することで、企業のブランド価値を高める役割を果たしています。アップルやディズニー、ナイキ、コカ・コーラといった一流企業ほどアーカイブの力を理解して、自社の歴史を大事にしているのです。

また欧米のみならずアジアにおいても中国や韓国を中心に、デジタルアーキビストを中心としたアーカイブに従事する人材育成は急速に進みつつあります。

日本で活躍するデジタルアーキビスト

資料を持った人

欧米に比べて、またアジアの中でもアーカイブを扱うという仕事への認知度が低い日本ではありますが、確実にその重要性が増していることは間違いありません

今後は、官公庁や地方自治体などの行政機関から一般企業にいたるまで、あらゆる組織が所有する情報資源をデジタルアーカイブとして保存し、活用することが強く求められているからです。たとえば、企業では知的財産や社史のデジタルアーカイブ化が進み、地方の自治体では文化資源や地域資源のデジタルアーカイブ化、学校現場では教育資料のデジタルアーカイブ化が必要になってくるでしょう。

そこで、デジタルアーカイブシステムを作り上げ、適切に運用することができるデジタルアーキビストの存在が必要不可欠になってくると予想されます。

日本企業の取り組みは?

企業におけるデジタルアーキビストの働きに絞って、もう少し詳しく説明しましょう。

まず、企業活動の中で作成され、他社とのやり取りの中で生まれた資料は、すべて企業アーカイブ(もしくはアーカイブズ)と呼ばれます。

具体的には、記録文書、会議資料、写真、ビデオ、各種報告書、議事録、会社案内、商品カタログ、広告、宣伝フィルム、社内報などが挙げられます。さらに言うなら、商品とそのパッケージ、試作品、社章、社旗、制服、商品生産ラインの機器などもアーカイブになり得ます。その企業に関するほぼすべての物といっても過言ではありません。

この企業アーカイブは、これまで50年史や100年史といった社史を作成するために参照される程度のものだと考えられていました。しかし、さきほど欧米の例で示したように、本来企業アーカイブはその企業の価値を高める、つまりブランディングのために非常に重要な役割を果たすものです。

海外の例にならい、そうした企業アーカイブの重要性を認識し活用する日本企業も増えてきました。

いくつかその事例を挙げてみましょう。

これらの企業のウェブサイトを見ると、企業アーカイブをデジタル化して保存し、それをうまく広報に利用して、自社の企業価値を高めていることが理解できますね。

企業アーカイブはデジタル化によって、従来の単なる社史の材料から、より多様な企業価値を実現するための材料に変化しました。特に「企業文化を伝達する材料」としてインターネットを通じて、社の内外に発信されるようになってきたのです。

これまでも企業では、社史編纂のために一時的に社内にアーカイブの部署を設けるということは行われていました。しかしその部署への配属は、特別な知識を持たない人が異動によって仕方なく、という例がほとんどでした。しかし企業アーカイブの重要性が高まっていくこれからの時代は、専門職であるデジタルアーキビストがこうした仕事にあたる例が増えていくでしょう。

活躍の場が増えていくデジタルアーキビスト

活躍のイメージ

デジタルアーキビストという職業のイメージを少しつかんでいただけたでしょうか。

欧米やアジアの中でも後れをとっている日本のデジタルアーカイブ事情ですが、未来が暗いわけではありません。たとえば日本ほど各企業が社史を作る国はほかにはない、とよく言われます。30年、50年、100年という節目に作られる社史は、その質もかなり高い傾向があります

このような企業風土があり、また元来物を大切にすることを美徳としてきた日本にとって、アーカイブの概念が浸透することは難しくはないでしょう。そうしたアーカイブ意識の高まりと、それをデジタルアーカイブとして積極的に活用する動きが結び付けば、デジタルアーキビストが活躍する場はどんどん増えていくと推測できます。

ぜひ、今後もデジタルアーキビストという職業にご注目ください。

専門知識が無くても活用できるアーカイブシステム

このようにデジタルアーカイブは専門知識が求められ、同時にそれを備えたデジタルアーキビストの重要性が分野を問わず増してきています。

しかし『資格や知識が無ければデジタルアーカイブを扱うのは難しいの?』かと言うと、決してそうではありません。デジタルアーカイブシステムは現在民間企業や地方自治体でも広く普及しており、専門知識や資格を持たない方でも運用・公開を簡単に行っています

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