伝統工芸品って何?魅力や工芸品の実例をわかりやすく解説!

伝統工芸品とは?

伝統工芸品は文化や伝統が息づく、我々の日常生活に息づく貴重なアートピースです。数百年受け継がれてきた伝統を持つ一方、現代の生活でも十分活用できるだけの機能性も有しています。

この記事では、伝統工芸品の定義からその魅力、抱える課題、そして実際の伝統工芸品の事例まで解説していきます

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伝統工芸品とは?

伝統工芸品は、陶磁器や竹細工、和紙など古くからその土地の日用品として使われてきた、職人によるハンドメイドの品物を指します。とはいえ厳密な定義は無く、最も近いものとしては1974年に成立・交付された法律「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」の第一条「伝統工芸品」にその一例を見ることが出来ます。

同法で定められる伝統的工芸品の定義は次の通りです。これら5つ全てを満たした工芸品が「伝統的工芸品」に該当します。

  • 主として日常生活の用に供されるもの
  • その製造過程の主要部分が手工業的
  • 伝統的な技術又は技法により製造されるもの
  • 伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるもの
  • 一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているもの

参照:経済産業省 伝統的工芸品

おおよそ、皆さんが「伝統工芸品」と聞いてイメージするものと近いのでは無いでしょうか。なお、2024年3月時点で国が指定した伝統的工芸品は241品目を数えます。単純計算で各都道府県に平均5つ以上の伝統工芸品があることになりますね。まさに日本は伝統工芸あふれる国と言うことが出来るでしょう。

伝統工芸品の「魅力」

そんな伝統工芸品ですが、長年にわたって私たちを惹きつける魅力は何でしょうか。現代人の視点で振り返ってみましょう。

1点1点手作り

現在、私たちの生活は工場で大量生産されたアイテムであふれています。そうした製品にあふれる生活を送っているからこそ、職人の手仕事によって一点一点丁寧に作られる伝統工芸品には、ならではの温かみ、味わい、個性が感じられます

職人の熟練した技術と意匠が融合した伝統工芸品には、機械的に大量生産された製品からはなかなか得られない魅力があるのです。

その地域の歴史・文化の結晶である

伝統工芸品は、その地域や文化の歴史・伝統を象徴する重要な品です。古くから伝わる技術や素材を用いて製作されており、その製品には深い歴史と文化が込められています

職人の技術はもちろんですが、その土地の資源、気候条件、生産品や生活スタイルまで、あらゆるものが込められ継承されているのが伝統工芸品です。大量生産された品物には無い、その土地ならではのストーリーがあると言えるでしょう。

環境にやさしい

伝統工芸品は基本的に手作業で制作されるため、製造時のCO2排出量は工場での大量生産に比べ少ない傾向にあります

また前述したように、素材としてその土地の資源、例えば木、漆、麻、土など天然のものを使用しているため、プラスチックやビニール類と違って基本的には廃棄後も自然分解が可能です。ただし後述するように、そもそも廃棄せずに直しながら長く使い続けられるのが伝統工芸品なので、環境へのやさしさで言えば工業製品の比では無いでしょう。

経年劣化も魅力になる

天然素材を使用している分、経年劣化や破損しやすい伝統工芸品もあります。美術品と違って日常生活で使用する品物なので「大事だから使わないようにする」という訳にもいきません。

しかしそうした経年劣化も経年”変化”ととらえ、色褪せや破損も味わいとして考えることが出来るのも伝統工芸品の魅力です。

補修しながら長く使える

漆と小麦粉を使って破損部分を接着する「金継ぎ」に代表されるように、日本の伝統工芸品には『壊れたら新しいものを』ではなく、補修しながら長く使う習慣があります。長く使えば使うほど愛着が湧くもの、そうした使い手の気持ちに寄り添った使い方が出来るのも、伝統工芸品ならではです。

伝統工芸品の抱える課題

このように伝統工芸品には長く愛されるだけの魅力がたくさんあります。しかし、そんな伝統工芸品も近年、様々な課題があります。

後継者不足

伝統工芸の生産に携わる伝統工芸士、および従事する従業員数は、いずれも15~25年前頃を境に減少傾向にあります。原因は職人の高齢化、および後継者不足で、伝統工芸品の生産額・販売額いずれも減少の一途を辿っているのが現状です。

一方で女性の担い手が右肩上がりで増え続いているという傾向もあり、減少の歯止めも期待されますが、それ以上のスピードで職人の減少が進んでいます。若い世代へ技術を継承する機会が少なくなれば、伝統工芸品そのものが消滅する恐れもあり、非常に深刻な問題です。

※参照:経済産業省説明資料

工業製品との比較

大量生産された工業製品にはない魅力があると書きましたが、とはいえ工業製品と比べるといくつか考慮しなければならない点があります。

まずは値段です。手作業で1品ずつ作っているということは、それだけ手間や時間をかけているということ。天然素材を使うのもコストがかかる要素の一つです。一方の大量生産品はあらゆる工程が自動化・低コスト化するよう企業努力がされており、素材にしてもプラスチックなどの安価なものを使うことで、伝統工芸品の数分の1~数十分の1の価格で同じ使用用途の品を購入することが出来ます。このように、価格競争になると伝統工芸品は大きな不利となります。

また、利便性でも工業製品に軍配が上がります。工業製品は価格だけでなく、現代生活に則って使いやすさ・機能性が追求されており、購入層のニーズが変われば都度、その商品の特徴も様変わりします。こういった大きな、かつ急速なニーズ変化への対応は伝統工芸品には難しいところがあります

さらに前述の「補修して長く使う」も、購入費に加え追加の費用や手間が増えると考えると『安い工業製品を買って、壊れたらまた買えばいいか』という判断に至ることもあります。伝統工芸品の補修は必ずしも近所で出来る訳では無いため、ここでも工業製品の利便性が優位に映ります。

このように、現代の生活の中で大量生産された製品と比べると、伝統工芸品を選ぶモチベーションが低くなる要因もあるのです。

需要の変化

前項と重複しますが、多くの日用品が低価格で手に入る現代、わざわざ普段使いの為に伝統工芸品を使う必要性が弱くなっている現状があります。

大量生産された日用品があふれる中で、伝統工芸品は「お土産」「祝いの品」として特別感のある品物として捉えられ、結果「使い方やお手入れ方法がよく分からないもの」という本来とは真逆のイメージを持っている方が少なくありません

このように伝統工芸品は、ただでさえ工業製品との熾烈な競争を強いられる上、その担い手も不足しているという苦しい状況が続いているのです。しかし前述したように女性の担い手が増加しているほか、伝統工芸の形も時代に合わせて変化しています。また最近ではインバウンドの増加により、外国人観光客の間で伝統工芸品は高い人気を誇っています。伝統工芸品が現代でも私たちを魅了することに変わりはなく、今後も様々な形で接することが出来るでしょう。

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伝統工芸品の実例 6選

最後に、伝統的工芸品として定められている241品目から6つの工芸品を紹介しましょう。

結城紬(織物)

結城袖は、茨城県・栃木県を代表する絹織物。もともと古くから盛んだった養蚕によって生まれる質の良い真綿で作られ、多くの文化人にも愛された高級な伝統工芸品です。 1956年には国の重要無形文化財にも指定されたほか、製造工程で発生する「糸つむぎ」「絣くくり」「地機織り」などの手作業はユネスコの無形文化遺産にも登録されるなど、国内外で高い評価を得ています。

結城袖は高級品ですが、その軽くて柔らかい肌触りはまさに日常的な利用を想定した伝統工芸品の典型例と言うことも出来ます。

美濃焼(陶磁器)

美濃焼は、岐阜県の東農地方の一部で生産される日本の代表的な焼き物です。この土地は陶器を作るための原料となる土(陶土)に恵まれていたほか、陶器を焼くための窯の製造にも適していました。安土桃山時代にはあの織田信長や千利休らの手によって隆盛を極め、その後現代に至るまで日本全国に広く流通しており、国内の焼き物シェアの50~60%を美濃焼が占めるとまで言われています

美濃焼は「特徴がないことが特徴」と言われるほど、非常に個性豊かな色形をしています。伝統工芸が衰退しつつある現代においても様々な作家達が作品を発表し続けており、今後も日本の焼き物の代表格として広く支持されることが期待されます。

金沢漆器(漆器)

金沢漆器は、その名の通り石川県金沢市周辺で製造されている漆器の伝統工芸品です。「加賀百万石」と言われた江戸時代の加賀藩が、平和政策として工芸に注力した中で「蒔絵(漆で絵や模様を描き、その上から金銀を載せる技法)」の技法が導入されたことがきっかけとなっています。

加賀ならではの豪華な色合いや雅(みやび)さを持ちながらも繊細さを兼ね備えているのが特徴です。日本三大漆器にも数えられている「輪島塗」同様、石川県を代表する漆器として知られています。

大館曲げわっぱ(木工品・竹工品)

豪華な金沢漆器とは対照的なのが、秋田県大館市の伝統工芸品・大館曲げわっぱです。削り出した杉の木を独自の製法で”曲げ”、桜の樹皮で留めたこの品は美しい木目と強い弾力性が大きな特徴。お弁当箱として使われているのをメディア等で目にした人も少なくないでしょう。

大館曲げわっぱの起こりは江戸時代、秋田の豊かな杉(秋田杉)を使って藩の特産品になったことからですが、実は平安時代の遺跡からも曲げわっぱは発掘されており、その起源は更に遡ることが出来るとされています。

最近では、美しく素朴な木目のお弁当箱に食べ物を詰め込んだ”映える”写真がSNSで人気を呼んだりと、改めて大館曲げわっぱが注目されています。

阿波和紙(和紙)

徳島県吉野川市など、徳島県北部で製造されている阿波和紙は、古くは何と奈良時代まで遡ることが出来る伝統工芸品です。江戸時代には同じく県内の一級水系・吉野川の沿岸で採れる良質な土から作った「阿波藍」で染めた「藍染和紙」が隆盛しました。伝統工芸品の中でも特に衰退度合いが大きく、現在は「アワガミファクトリー」がその技法を受け継ぎ、「阿波和紙」を現代に適したものへ進化させています

「阿波和紙」は1枚1枚を”手すき”で作っているため、通常の紙に比べ非常に丈夫です。また「藍染和紙」に代表されるように非常に日本的で美しい色使いが見られるため、海外アーティストが支持体として使用するなど国際的にも高い評価を得ています。

※参照:アワガミファクトリー

東京銀器(金工品)

ここまでは地方の伝統工芸品を紹介してきましたが、東京にも素晴らしい伝統工芸品が存在します。東京銀器は主に荒川区や台東区で作られている伝統工芸品で、92.5%以上という高い純度の銀で製造される器です。

こちらも江戸時代が発祥で、当時江戸にいた銀器職人や金工師(刀の装飾に使われる金具を加工する職人)が作り始めたことがきっかけです。最大の特徴は先述の高い純度ゆえに発せられる銀の輝きと、職人の高い技術によって作られる市松模様などの伝統模様にあります

「銀」と聞くとイヤリングやネックレスなどの装飾品がイメージされますが、日用品に高い純度の銀を持ち込める技術は、まさに日本の伝統工芸品ならではと言えるでしょう。

多様な伝統工芸品を楽しもう

今回は日本の伝統工芸品について解説しました。

実例で見てきたように、それぞれ地元の天然資源や人の手を活かして作り始めたのがきっかけです。現代以前の「地域活性化」とも言えるかも知れません。

⇨【関連記事】地域活性化とは?政策、ポイント、メリットや事例について解説!

非常に高い技術と完成度を持ち、海外でも高い人気を誇りながらも、後継者不足や大量生産された製品との競争に晒されることで苦境に立たされている伝統工芸品。もし街中やお店で見かけたら、ぜひ手に取ってその魅力を感じてみてください。

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