産学連携とは?メリット、連携の種類、実例をわかりやすく紹介

産学連携とは?

産学連携とは、企業をはじめとした産業界と大学をはじめとした学術界が協力し、研究開発や教育活動を行う取り組みのことです。両者が連携することで、産学双方のニーズに応える研究や技術開発が進み、市場や社会に対して新たな価値を創造することが期待されます。

産学連携の実施件数は、毎年右肩上がりで伸び続けています。とはいえ企業にとってどのようなメリットがあるのか、何に留意すべきなのかは、大学等の力を借りたい企業は必ず知っておきたいところです。

今回は、産学連携の意味、日本における状況とメリットや実施における注意点、そして実際の産学連携の事例について解説していきます

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産学連携とは?

産学連携とは、大学の持つ専門的な知識の活用や研究を企業と連携して進める取り組みのことです。

通常、企業がなんらかの研究開発を進めるには莫大な投資金額が必要になります。設備はもちろんですが、そもそも研究に当たる人材や研究開発を進めるノウハウを持ち合わせていない場合がほとんどです。

ここに、学術機関として研究・教育を行っている大学が手を組むことで、企業側は最小限度のリソースで研究開発を行うことが出来ます。このようなメリットから産学連携は毎年右肩上がりで伸び続けており、少し古いデータですが、2019年の共同研究実施件数は過去5年前に比べおよそ1.7倍にまで増えています

※参照:【資料2-1】産学官連携の最近の動向について(2021年12月14日差し替え)

なお、最近では産業と学術機関に行政を入れた「産学連携」も一般的になっています。

産学連携のメリットは?

企業が外部組織、しかも営利団体ではない学術機関と連携することは一見難しそうに思えますが、一体産学連携にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主に企業側から考えたメリットを紹介していきます。

リソースを効率的に活用出来る

先述したように、企業が研究開発を自前で行うには莫大な費用がかかります。加えて自社の専門領域ではない分野におけるスペシャリストを雇用するのは決して簡単ではなく、まして自社で育成するのは更に困難となるでしょう。

産学連携では、分野の専門家である大学研究室と連携する形で研究を進めることが出来ます。大学の研究設備や専門家のナレッジ、ノウハウを活用出来るのはもちろんですが、研究室とのコネクションや連携終了後の新たな取り組みまで期待することが出来ます。全額自己資金で整えるよりも、より低コストかつ効率的に行うことが出来るのが、産学連携の大きなメリットです

最新技術の獲得

企業は市場のニーズを汲み取ることや、ニーズを商品化して販売することには長けているものの、専門分野の最新の知見を得る・活用することはむしろ苦手です。

産学連携で大学等の専門機関と繋がることが出来れば、最新の技術や研究成果へアクセスすることが出来るようになります。これにより製品・サービスの改善や技術革新(イノベーション)が可能となり、最終的には市場での競争力の強化に繋がるでしょう。

社会的信頼の向上

産学連携は企業にとってメリット様々なメリットがある一方、大学側にも「人材育成」の面で大きな利点があります。

長らく日本では「大学が輩出する人材」と「企業側が欲しい人材」のミスマッチが課題となってきました。学生は普段の授業や学生生活の中で企業と関わる機会が無く、かといって大学側でそのための教育を行うのも困難です。ここで企業が産学連携という形で現役の学生と関わることは、その意味で大きなメリットがあり、同時に企業が社会貢献しているという対外的なPRにもなります

例えば株式会社カインズは、産学連携プロジェクトに参加した学生に同社のCSR報告書作成を依頼するという取り組みを実施しました。学生にとっては本物の企業の報告書を作成するという、通常の授業では得られない貴重な経験になります。こうした企業の産学連携を通じた取り組みは、社会的にも高く評価され、企業の好感度や社会性の評価に繋がるでしょう

※参照:新しい「産学連携のかたち」「大学生が作る」CSR報告書

補助金の獲得

産学連携は国が推進する施策です。1990年代から続いている経済的低迷を受け、学術機関が生み出す研究成果を産業界に移転しイノベーションを起こすべく、1998年の「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(TLO法)」、翌99年の「産業活力再生特別措置法」など、様々な法的整備が国によって為されてきました。

同じように、産学連携を実施する企業と大学に対する補助金も様々に整備されています。例えばものづくりにおける関する産学連携に対しては「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」が経済産業省により整備されており、ものづくり中小企業が大学や研究機関等と連携して研究開発・事業化を行う場合、補助金を受けることが出来ます。

他にも様々な補助金が用意されているため、より企業が学術機関との連携に取り組みやすくなっていると言うことが出来るでしょう。

産学連携の注意点

利益、社会的評価いずれの面でもメリットがあり、その上低コスト・補助金も使えるなど取り組みやすい条件が整っているように見える産学連携ですが、注意しなければならない点があります。

長期的なパートナーシップを意識する

産学連携は一時的な取り組み・提携ではなく、持続的に協力関係を築いていくことが重要です。

そもそも、企業と大学ではそれぞれ異なる目標を持っています。産学連携を進める上で大切なのは一方的な利益の追求ではなく、双方が協力し合いながら研究開発に取り組んでいくことにあります

利益だけではなく、

  • 産学間での情報共有は?機密性についてはどう考えるか?
  • 研究成果の共有はどうするのか?
  • 研究の透明性・信頼性は担保されているか?
  • 知的財産権の管理はどうするのか?

など、あらゆる側面で企業側と大学側が調整や協力を、長期的に行う必要があります。

また、そもそも産学連携で生まれたプロダクトがすぐに日の目を見るとは限らず、成果までに時間がかかることも留意しなければなりません。特に企業側はなるべく早い段階で投資を回収したくなるところですが、大学と歩調を合わせ長期的なパートナーシップを見据えて取り組むことが求められるでしょう

産学連携の種類

産学連携には大きく3つの種類があります。

共同研究

共同研究とは、企業などから経費を出資し、企業と大学の教員が共同で研究開発する連携方法のことです。恐らく一般の方が「産学連携」と聞いて一番イメージに近いタイプではないでしょうか。

まず『新製品を開発したい』『既存の製品を改良したい』という企業側のニーズと、そのニーズに対応する研究成果を持つ大学で打ち合わせや相談を実施します。その後企業側の研究者と大学の研究者が共同で研究を行い、最後に成果の報告をする、という流れです。

気になるのは企業と大学がどこで接点を持つのか、ですが、専門機関に紹介(コーディネート)を受けたり、産学連携フェアなどのイベントでマッチングするケース、また企業側から大学の研究者に対してアプローチする場合もあります。

受託研究

受託研究は、企業から依頼された内容を大学の研究者が研究開発するタイプです。共同研究との違いは「受託」の名の通り、企業側では研究を行わない点にあります。言い換えれば大学側で発生する研究費用(人件費、旅費、消耗品費など)は基本的に企業側が持つことになるのが受託研究です。

技術指導

技術指導は、企業側へ講座を実施する産学連携になります。特定分野の専門的知見からアドバイスが欲しい、社員向けにコンサルティングや研修を行なって欲しいというニーズに大学が応える形で、企業に対して研究者を紹介し、指導や講座を行うものです。

前2者とは異なり、指導自体もスポットで終わることもあります。

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産学連携の実例

産学連携の種類を確認したところで、実際に日本で実施された産学連携の事例を紹介していきましょう。

(株)IHI – 人工知能(AI)技術に関する共同研究(横浜国立大学)

日本を代表する重工業メーカーであるIHIが、AIの技術開発やその手法について横浜国立大学の専門家と共働し、同社の様々な製品や製造現場におけるAIテクノロジーの適用に関する技術開発を実施しました。なおIHI側からは技術者2名が大学に派遣され、共同研究講座の非常勤教員となっています。

この共同研究では研究面での連携はもちろん、教育面での連携も行われており、人材育成や人的交流も視野に入れた提携であることが報告されています

※参照:「組織対組織」による産学連携の取組事例集(P.15)

麺屋武蔵 – 熱中症対策 フローズン冷やし中華(日本薬科大学)

「産学連携」と聞くと製造業や理工学分野のイメージがありますが、非常にユニークな事例に取り組んだのがラーメン屋の麺屋武蔵日本薬科大学の講師および学生と共同開発し、熱中症対策フローズン冷やし中華』と題した新メニューを期間限定で販売しました

日本薬科大学には漢方薬学のコースがあり、これまでも花粉症やインフルエンザ対策のラーメンを開発してきました。今回も漢方医学をベースに体内の熱を下げる効果が期待される食材を用い、試食も同大の部活動メンバーが行うという徹底ぶり。メディアにも多数取り上げられ話題となりました。

なかなか私たちの生活には身近さを感じにくい産学連携ですが、こうしたメニュー開発も実はその一種だと知ると一気に親近感が持てますね。

大内塗漆器振興協同組合 – 大内塗ユニバーサルデザイン椀 (山口県立大学、山口市)

大内塗」とは、山口県山口市で室町時代より作られている漆器の伝統工芸品です。その大内塗で作られている「大内人形」は可愛らしい見た目をした人形で、お祝い事の贈り物や夫婦円満の象徴として人気を博していいます。

⇨【関連記事】伝統工芸品って何?魅力や工芸品の実例をわかりやすく解説!

その大内人形を山口県立大学の地域デザイン研究所大内塗漆器振興協同組合、そして行政である山口市が連携(産学官連携)して開発したのが「大内人形椀」です。「人形椀」とはどう言うことかというと、通常時はお椀の形をしている器がひっくり返すと人形の顔を見せるという斬新なアイデアの器。

産学連携は地域産業にも良い影響があると言われており、実際に地域活性化を目的とした連携も多数存在します。今回の取り組みはそこで伝統工芸品という地域の歴史・文化が詰まった対象を研究開発に選ぶという、まさに社会性の高い実例の一つと言えるでしょう

※参照:大内塗漆器の新商品シリーズ第 2 弾

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電源開発株式会社 – 送電設備の自動点検ドローンの開発(岡山理科大学)

電源開発株式会社(通称「Jパワー」)が岡山理科大と共同で開発したのは、送電線や架空地線(※電力線を雷から保護する設備のこと)を自律式ドローンで点検する「自律撮影技術

以前からドローンを使った点検業務は行われていましたが、今回開発された技術はより強風などの環境変化に強く、リアルタイム制御が可能で、従来よりも対象物に接近し高精細な撮影画像を得られるようになりました。点検スピードも改善されており、従来の架空電力線点検の作業時間と比べ50%以上の効率化が期待出来るとのこと

ドローンには送電設備情報、最先端のセンサー技術や制御技術、カメラ技術、画像処理技術など様々な技術が搭載されており、極めて高い技術力が伺えます。今回Jパワーおよび岡山理科大学は共同で本技術の特許も取得しました。

年々増加する産学連携

今回は産学連携について解説しました。

リーマンショックやコロナ禍で一時的に落ち込みはしたものの、その実施件数は右肩上がりで伸び続けている産学連携。実用例は実に様々で、AIや医療分野から街中の飲食店、果ては地方の伝統工芸品制作まであらゆる分野にわたることが知られています。

北は北海道、南は沖縄まで、全国のあらゆる大学と企業、そして行政が連携して様々な研究開発を行い、その成果が私たちの生活に還元されています。皆さんも近所の大学や自分の出身大学が、一体どのような産学連携の事例を持っているのか調べてみると面白いかも知れません。

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