ノートルダム大聖堂の『3Dデータ』を制作した方法とは?

ノートルダム大聖堂

4月15日に火災でその一部が焼失した、パリを代表する建築物のノートルダム大聖堂

16日にフランスのマクロン大統領が『5年以内の修復を目指す』と宣言しニュースになりましたが、実はノートルダム大聖堂は焼失前にスキャニングがされています。修復作業はこのデータが大きな鍵になるかも知れません。

今回は、かつてノートルダム大聖堂をスキャニングした事例とその方法について簡単に紹介します。

3Dデータで構造を再現

ノートルダム大聖堂をスキャンしたのはベルギー出身の絵画史研究者・アンドリュー・タロン氏。ノートルダム大聖堂は世界的に有名な建築物ですが、実は設計者が明らかになっていません(更に言えば『誰が、どのように建てたのか』もハッキリしていません)。この謎多き世界遺産の構造を明らかにすべく、大聖堂全体のデータ化を試みたのがタロン氏でした。2015年、焼失の4年前のことです。

とはいえ『建物をスキャニング』と言われてもピンと来ない方がいるかも知れません。一体どんな方法でこの壮大な建築物をデータ化したのでしょうか。

レーザースキャナー

タロン氏が使ったのは、レーザースキャナーと呼ばれる、立体的なデータを採取する為に使われる特殊なスキャナーでした。

そのままスキャンでも活用している電子化専用の『スキャナー』は、書籍や図面などの『平面』資料をスキャナーに通しデータ化するという、基本的な構造は複合機と同じものです。一方、レーザースキャナーは建造物や風景などの『立体物』をデータ化する為に使用されるもので、対象を3次元的に捉えるという点で大きな違いがあります。

弊社で使用している絵画専用スキャナーWidetek(R) 36ARTにも被写体を3D加工する機能がありますが、これは平面の凹凸をより明確にするもので立体用のスキャンとは根本的に異なるものです。つまり単純にノートルダム大聖堂を画像データ目的でスキャンした訳ではなく、文字通り全体の詳細な構造を丸ごとデータ上で再現しようとしたということなんですね。

レーザースキャナーの仕組み

▲こちらがタロン氏の用いたものと同じ、地上型と呼ばれるレーザースキャナーを用いたスキャニングの仕組みです。左側にあるイラストがスキャナーで、上部にある白い円筒状の部分がレーザーの発射口となっています。測量機のような形をしていますが、正にデータ化同時に正確な測量が求められる際に活用される機器と言えます。

仕組みはシンプル。まず、データ化したい建造物のあらゆる箇所でスキャナーを設置しスキャニングします。スキャニングは上記イラストの様に『レーザー』を射出して行われ、これにより各地点の点群データと呼ばれるドットのデータを採取することが出来ます(この各ドットとスキャナーの距離も極めて正確に測定できます)。そうして集められたデータをコンピューター上でマッピングすることで正確な3次元データが完成する、というものです。聞くとシンプルですが、非常に高度な技術が使用されています。

タロン氏はこのスキャニングを大聖堂の内外計50箇所以上で実施し、同時にそれぞれの地点でパノラマ写真も撮影しました。その後、この作業で集められた10億を超える『点』のデータそれぞれを写真の上にマッピング。結果、極めて写実的で構造を正確に捉えた画像を制作することに成功しました(スキャニングを紹介している動画が残っています)。

この時、今回の火災で焼失した尖塔(せんとう)部分も当然採取されていました。タロン氏は残念ながら昨年12月に亡くなりましたが、今回の修復作業ではこのタロン氏の作成したデータが大変重宝されると予想されています。

スキャン×マッピングの事例は他にも

因みにそのままスキャンではレーザースキャナーを所持していませんが、実はマッピングのお手伝いをした事例はあります。その際は、太平洋戦争の戦死者情報が記録された名簿(紙)をデータ化し、テキストデータへ変換した後『各戦死者がいつ、どこで、どのようにして亡くなったのか』を画面上でマッピングして表示するというものでした。このように、デジタル化されていない過去の膨大な情報をマッピングし、全体像を浮き彫りにするという試みは近年あちこちで行われています。

年間約1,300万人が訪れると言われているノートルダム大聖堂。資金面や修復方法など課題は山積みですが、ぜひ地元の方々や世界中の人の望む形に落ち着いてくれれば…と思います。

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