形式知とは?暗黙知からの変換方法を解説

形式知とは?

形式知は、その対義語である「暗黙知」とセットで使われることの多いビジネス用語です。企業ではこの暗黙知をどのようにして形式知化させるのか、が課題として存在しますが、そもそも形式知が何なのかを知らなければ暗黙知の変換も出来ません。

今回は形式知について、暗黙知との違いや鍵となるナレッジマネジメントとも関連させて解説していきましょう

形式知とは?暗黙知との違いは?

形式知とは、言葉や文章、音声、動画などで伝達することが出来る知識のことです。ビジネスシーンにおいては操作マニュアルや手順書、公式な報告書などとして文書化され、他者と共有可能な形で存在しているものが形式知に該当します。

暗黙知」は反対に個々の経験や感覚に根ざした知識であり、言葉や書き言葉で簡単に表現できない知識のことを指します。先ほどの例で言えば、マニュアルは誰が見ても同じように理解できる「客観的な情報・知識」です。一方の暗黙知は”長年の勘”や”直感的に理解していること”など、要するに他者との共有が不可能な知識です。

企業で暗黙知が問題視される背景の一つに、雇用の流動化が挙げられます。

かつての終身雇用制度は崩壊し、新卒で入った、あるいは長年勤めた会社を退職し転職することは一般的になりました。それまで担当者が持っていた知識や経験は必ずしも形式知として共有されているとは限らず、残された引き継ぎ通りに業務を遂行しても、前任者のように上手く進まないことがあります。これは退職した社員の暗黙知が重要な役割を持っていたためで、このように社内に貴重なナレッジが残らないまま次々と担当者が変わってしまうと、業務のクオリティに影響が及び、会社としてのパフォーマンス低下に繋がる恐れがあります

暗黙知を形式知に変換しておけば前任者のクオリティを受け継ぎやすくなりますし、そうしたナレッジが形として残っていれば従業員教育にも活用することが出来ます。ここで重要になってくるのが後述する「ナレッジマネジメント」です。

”勘””経験則”を共有し得る知識として変換すれば、新人社員からベテランまで幅広く恩恵にあずかることが出来るでしょう。

集合知とは

補足情報になりますが、知識については形式知や暗黙知以外にも種類が存在します。

集合知は、複数の個人や組織が持つ知識や情報を集約し、共有することで生まれる知識のことを指します。個々の知識や情報を統合してより広範な視野から問題を分析し、解決策を導くことが出来るのが集合知です。協力や協働を通じて生まれるため、個々の知識や情報を超えた価値を持つことが可能となります。

実践知とは?

一方実践知とは、実際の経験や実践によって獲得される知識のことです。個々の経験や行動によって獲得されるため、状況や環境に応じた具体的な知識としての重要性を持っています。

集合知、実践知ともに形式知とは似て非なる用語ですが、どちらも組織にとっては重要な知識です。

ナレッジマネジメントとSECIモデル

さて、この暗黙知を形式知に変換させ、共有させたり活用させることを「ナレッジマネジメント」と呼びます。ナレッジマネジメントは厳密には経営手法に分類される手法で、企業が蓄積したノウハウやスキル、顧客の情報などをすべての社員間で共有することによって企業が保有している競争力を向上させることが目的です。先ほど紹介した集合知とも深く関係のあるものです。

そしてそのナレッジマネジメントにおいて大切なポイントが4つあります。以下で順に解説していきましょう。

SECI(セキ)モデル

SECI(セキ)モデルは、個人の知識を組織内で共有し、より高度な知識を創出することを目的としたフレームワークプロセスです。一橋大学の名誉教授である野中郁次郎氏と竹内弘高氏によって執筆された「The Knowledge Creating Company」で提唱されました。

このモデルの名前は、4つのフェーズを表す頭文字に由来しており、SECIモデルはこれらのフェーズを通じて形成されます。フェーズは次の通りです。

  1. 共同化(Socialization):組織内の小さなグループで暗黙知を共有することによって、新しい暗黙知を作り上げる
  2. 表出化(Externalization):共同化によって作り出された暗黙知を小さなグループが洗い出すことで形式知化する
  3. 結合化(Combination):複数の小さなグループがそれぞれ洗い出した形式知を結合することによって、新しい知識を作り出す
  4. 内面化(Internalization):結合化によって新しく作り出された知識を組織に広めることによって、新たな暗黙知を作り出す

SECIモデルは個々の知識や情報を共有・統合・形式化することで、暗黙知を形式知化する一連のプロセスを表しています。

共同化のための「場」づくり

SECIモデルではまず共同化が起こると説明しましたが、『さぁ、皆さんの暗黙知を共有してください!』と突然言われても従業員は困るだけです。共同化に必要な場所を提供するための場所を用意することが大切です。

 例えば社内でのワークショップブレインストーミングなど、従業員がアイデアを自由に発信・共有出来る機会を設けることなどが挙げられます。また場づくりは必ずしもオフラインである必要はなく、社内チャットツールやSNSを使った情報共有も有効な手段です。これらの施策により組織内の知識やアイデアが共有され「新しい暗黙知」が形成されるでしょう。

ツール、ソフトウェアの導入

現在ではナレッジマネジメント専用のツールが多数公開されており、無料で使えるものも少なくありません。

イントラネットやチャットツールといった基本的な共有ツールほか、組織内の文書やファイルを一元的に管理出来る文書管理システム、文字通り会社のナレッジを集約した社内wikiなど、組織のタイプやナレッジマネジメントの目的によって様々に選ぶことが出来ます。こうしたソフトウェアを導入することは、ナレッジマネジメントの大きな助けになるでしょう

リーダーが率先して取り組むこと

しかし何より重要なのは、経営陣をはじめとした組織のリーダー層が率先して取り組むことです。場を作れば、ツールを入れれば自然にナレッジマネジメントが進んでいく訳ではなく、ナレッジマネジメントの重要性やメリットを理解したリーダーが、主体的にナレッジマネジメントを浸透させるよう努力することが求められます。同時に社員の意識改革も進むでしょう。

ナレッジマネジメント、およびその目的である形式知化は「一度やれば終わり」というものではなく、根気強く取り組んでいくものです。形式知化の重要性を理解しているリーダーが率先して取り組むことが求められます。

形式知への変換で個人のノウハウが財産に

今回は形式知について解説しました。

暗黙知を形式知に変換するには、組織内の知識を共有し、有用な形式知として取り入れるプロセスが必要です。このプロセスを通じて、個人の経験や知識が組織全体で活用可能な形に変換され、新たな価値を生み出すことができます。組織が暗黙知の形式知化に積極的に取り組むことで、より効果的なナレッジマネジメントが実現され、組織全体のパフォーマンスが向上することが期待されるでしょう

「人財」という言葉があるように、本来従業員の一人ひとりは企業にとって極めて大切な存在です。その従業員が抱えている暗黙知を形式知に変換すれば、単なる個人のノウハウ、勘が会社全体の財産になることでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です