コレクティブインパクトとは?新しい課題解決アプローチの意味、特徴を解説
「コレクティブインパクト(Colloective Impact)」とは、2011年にJohn KaniaとMark Kramaer氏が発表した論文で提唱された社会課題解決のための新しいアプローチです。
これまでも個人のボランティア活動や企業のCSR活動、そして行政の取り組みと社会課題解決に関する動きは様々にありましたが、そうした従来型のアプローチとは大きく異なる特徴があります。では、コレクティブインパクトとは一体何でしょうか?また具体的に何をすれば良いのでしょうか?
目次
コレクティブインパクトとは?必要とされる理由
コレクティブインパクトとは、社会的課題や問題解決に取り組む際、行政・NPOをはじめとしたソーシャルセクター・市民団体・営利企業など複数の組織や個人が連携して取り組むことで、より大きな効果を生み出すアプローチのことです。
単一の組織や個人を主体とした社会課題解決の動きはこれまでもありました。しかし中には単体での解決が難しいイシューも多く、現代では様々なリソースを集約させて取り組む必要性が出ています。そうした複雑な社会問題に対し様々なステークホルダーが協力し合うことで、持続可能な解決策を見出すことが可能となるのです。
似た言葉に「協働」という概念があります。こちらは『立場や活動内容が異なる団体・人同士が協力し、共通の目的に向かって動く』ことを指し、この意味においてはコレクティブインパクトと違いはありません。しかしコレクティブインパクトは単なる協働を超え、より具体的・戦略的に課題に対してアプローチするもの、と言うことが出来ます。
コレクティブインパクトには、次に紹介するいくつかの特徴があります。言い換えればこの特徴こそが単なる「協働」との違いと言えるでしょう。
コレクティブインパクト 5つの特徴
コレクティブインパクトが有する特徴は、次の5つです。
- 共通のアジェンダ設定
- パートナーシップの構築
- 共有された評価システム
- 継続的なコミュニケーション
- バックボーンの存在
いずれもコレクティブインパクトを生み出すために必要不可欠な「条件」と言うことも出来ます。順に解説していきましょう。
①共通のアジェンダ設定
前述したように、コレクティブインパクトでは様々なステークホルダーが関与します。異なる組織や個人が関与する場合、それぞれが異なるモチベーションや価値観を持っています。共通のアジェンダを設定することで、参加者間での意見のすり合わせを行い、合意形成を図ることが可能となります。
そうして取り組むべき方向性を明確に示すことで、課題や目標がより明確になり、一体感を持って取り組むことが出来るようになります。「一体感」はコレクティブインパクトに不可欠な要素です。
②パートナーシップの構築
とはいえ、目標を共有しても動きがバラバラになってしまうと意味がありません。各ステークホルダーがそれぞれの強みや特性を活かし、かつ相互に連携し合うこともコレクティブインパクトにとっては重要であり、「協働」との違いでもあります。
ここでは参加者間の意思疎通を促進し、協力関係を築き上げる役割を果たす中間組織的な存在が求められます。
③共有された評価システム
コレクティブインパクトを実現するためには、データとエビデンスに基づいた評価システムを各ステークホルダー合意の下構築し、かつ共有されていることが求められます。
共通の評価システムの下活動→成果の測定→その報告→学習と改善、という流れを実施することで、“何となく社会に良いことをした気持ち”ではなくエビデンスに基づいた課題解決へのアプローチを実現することが出来ます。
④継続的なコミュニケーション
③を適正に履行するためにも、ステークホルダー間の開かれたコミュニケーションを継続的に行うことが必要です。
透明性のあるコミュニケーションが浸透すれば相互の信頼感が増し、連携の深化、更なる合意形成、戦略の立案や共有にも好影響があります。
⑤バックボーンの存在
コレクティブインパクトを目指す上で必要な資金、戦略やノウハウ、評価システムの実行、そしてそれら全ての土台となる関係者との調整や連携を担う、コレクティブインパクトの全体を管理する存在です。
例えば、営利企業の重要な目的は事業で利益を上げ会社を存続させることであり、社会課題へアプローチするリソースやノウハウに余裕があるとは限りません。コレクティブインパクトに特化した組織が参画することで、アプローチ自体に抜群の安定感を生むことが出来ます。
企業がコレクティブインパクトに取り組むメリットは?
以上見てきたように、コレクティブインパクトは様々なステークホルダーが連携しながら確実な方法で社会課題に取り組むというものです。その上で、営利企業の果たす役割は重要です。
しかし、企業が売上に直結しない事業へ参画するには強い動機が無ければ難しいかも知れません。続いては、そんな営利企業がコレクティブインパクトへ参画するメリットを紹介します。
①社会的信頼の向上
コレクティブインパクトに参加することで、企業として社会課題に取り組んでいるという「姿勢」を広くアピールし、社会的信頼を高めたり、ブランド価値を向上させたりすることが出来ます。
企業のビジョンや行動理念として社会課題の解決を標榜することがありますが、自治体やNPOなどの組織と具体的・戦略的に連携するコレクティブインパクトは、そうした方針の策定よりも遥かに具体的で、説得力があります。結果として好意的な印象を市場に与えることが出来るでしょう。
②市場機会の拡大
企業がコレクティブインパクトに参画すると、新たな顧客層や市場セグメントを開拓する機会を得られ、ビジネスの成長を促進させることが出来ます。
コレクティブインパクトでは、コアビジネスで普段関わることのなステークホルダー達とコミュニケーションを取ることになります。プロジェクトを進める中で様々なナレッジ・組織・人脈と関わり、それが新たな市場の獲得や新規事業の思わぬきっかけになるかも知れません。
③イノベーションの促進
前項に関連して、企業は新たなイノベーションを生み出す機会を得ることが可能となります。異なるステークホルダーとの協力・協働で新たなアイデアやアプローチが生まれ、ビジネスの競争力を向上させることが出来ます。
「イノベーション」はそもそも“発明を実用化し、その結果として社会を変える”という意味の言葉です。コレクティブインパクトへの参画がヒントになる可能性は十分にあると言えるでしょう。
④社員のモチベーション向上
社会的課題に取り組むと、普段のコア業務では経験出来ない様々な刺激や学びを得ることが出来ます。社外の様々な組織と連携し社会課題にぶつかる、という活動は自己実現感ややりがいをもたらし、結果として企業への忠誠心やエンゲージメントを向上させることが期待されます。
コレクティブインパクトのこれから
コレクティブインパクトは2011年に初めて提唱された概念なので、事例もそれほど多くはありません。
しかし市場や世の中の状況の大きな変化の結果としてデザイン経営が浸透するようになったことと同じく、社会課題の解決も時代の大きな変化の中でそのアプローチを変える必要性が出ています。コレクティブインパクトは自治体・NPO・企業など様々なステークホルダーが強く連携するという点で、従来の方法とは一線を画すものです。
単なる社会貢献だけでなく、参画した一人ひとりにとって大きな経験にもなり得るコレクティブインパクト。どんどん身近に・かつ深化していくこの動きに、皆さんも参加してみてはいかがでしょうか。
コメントを残す