デジタルイノベーションとは?DXとの違い、事例を解説・紹介

デジタルイノベーションとは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)と一緒に使われる用語の一つに「デジタルイノベーション」というものがあります。字面だけ見ると違いが分かりにくいかも知れませんが、両者は少し異なる概念です。一方で、どちらも企業活動には重要な役割を持つ点は変わりません。

今回は、DXとの違いも踏まえつつ、デジタルイノベーションとは何なのか、その課題やイノベーション事例について解説していきます

デジタルイノベーションとは?

デジタルイノベーションは、新しいデジタル技術やデータを活用して、新たな価値を生み出し、社会に変化を与える取り組みを指します

より端的に言えば、デジタルイノベーションは『デジタル技術・人材でイノベーションを起こす』こと。では、イノベーションはそもそもどんな意味でしょうか。

イノベーションとは?

イノベーションは、発明を実用化して社会を変革することを意味します。20世紀初頭に経済学者のジョセフ・シュンペーターが唱えた定義では、大きく5つに分類することが出来ます。

  1. プロダクト・イノベーション:商品の分野
  2. プロセス・イノベーション:生産プロセスの分野
  3. マーケット・イノベーション:市場の分野
  4. サプライチェーン・イノベーション:資源の分野
  5. オーガニゼーション・イノベーション:組織の分野

上記定義が20世紀初頭に登場していることからも分かるように、イノベーション自体はテクノロジー分野には限定される訳ではありません。とはいえ近年ではイノベーション=技術革新と同義に捉えられるようになっており、今やデジタルの力なしにイノベーションを起こすことは難しくなっています。「デジタルイノベーション」は現代における代表的なイノベーションと言うことが出来るでしょう

DX(デジタルトランスフォーメーション)との違い

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタルの技術を使って組織全体のビジネスプロセス、組織文化などビジネスモデルを革新することを指します。元々は、2004年にスウェーデンにあるウメオ大学の教授であるエリック・ストルターマン氏が提唱した「ITが世の中に浸透することによって人々の生活は様々な面でより良い方向に変化していく」という概念ですが、現在では広くビジネス分野における変革を示す言葉として使われています。

DXとデジタルイノベーションの違いは、その目的にあります。DXの目的は組織やビジネスモデルの変革であり、その最終的な目的は企業としての競争力の強化、つまり市場におけるライバル企業との競合優位性です。

一方デジタルイノベーションは、イノベーションの説明部分でも触れたように変革の対象は組織や企業ではなく”社会”にあります。よく聞くような、DX導入によってもたらされた業務プロセスの効率化、画期的な商品のリリース、顧客体験のオートメーション化などの事例は、それらによって引き起こされる社会のデジタルイノベーションの”トリガー”とも言うことが出来るかも知れません。

⇨【関連記事】デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

デジタルイノベーションの注意点

このように、デジタルイノベーションはDXを更に超えた大きな革新をもたらすことが出来るのです。とはいえ、その分乗り越えなければならない課題や難しいポイントも存在します。

①デジタル人材の不足

経済産業省が2018年に発表したレポート「DXレポート」において、DXを推進しなければ2025年までにおよそ12兆円の経済損失が発生すると報告されており、その鍵となるのがデジタル人材です。

デジタル人材とは、IoTやAIなどのソフトウェアを活用する知識を持つ人材のことですが、DX同様デジタルイノベーションでもこの人材が不足していることが課題となっています。デジタル人材がいなければDXを実現することは困難で、DXが実現しなければデジタルイノベーションも実現しません。各社とも、デジタル人材を獲得することが急務となっています。

②組織側の理解

DXは組織を変革することが目的なので、当然組織文化やそれまでの考え方、さらには既存商品やサービスとも融和させながら進める必要があります。

同じことがデジタルイノベーションにも言え、これまで使ったことのないデジタル技術を導入しイノベーションを起こすことになるため、前述の人材が必要な点はもちろん、非デジタル分野の人間にもデジタルリテラシーや技術への理解が求められます。長年慣れた環境やサービスに変革をもたらすことになるデジタルイノベーションは、人によっては受け入れ難いものになる恐れがあります。

デジタルイノベーションの実例

とはいえ、定義上の話をしてもデジタルイノベーションのイメージはつきにくいかも知れません。実はデジタルイノベーションは経済産業省によって推進されており、地方の企業がデジタルイノベーションに取り組むことを支援する「地域新成長産業創出促進事業費補助金」という支援制度まで創設されています。

この事業では「地域の特性や強みとデジタル技術をかけあわせた新たなビジネスモデルの構築」が支援対象として定義されています。支援対象として採択された事業も公開されているため、いくつか抜粋して見ていきましょう。

※参照:令和4年度地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域デジタルイノベーション促進事業)採択一覧

播州織製品の生産・サプライチェーンの革新

播州織とは、兵庫県西脇市などの北播磨と呼ばれる地域で生産されている織物のひとつ。国内のみならず海外でも人気の高い日本の伝統工芸品ですが、その特徴ゆえの課題があります。

播州織は通常の布地と比べて色柄が多彩なため、営業担当が顧客へ提案する際等に適切な生地を選定することが難しく、結果多くの機会損失が発生しているとされていました。

そこで織物メーカーである植山織物株式会社・廣田縫工株式会社はデジタル企業と協力し共同でデジタルイノベーション施策を実施しました。具体的には、膨大な種類のある播州織の生地情報(規格、大きさ、色など)をデジタル化し、マスターデータとなる「播州織のデータベース」を構築。同時に縫製加工の工程を自動化し、受注〜生産完了までの生産工程のイノベーションを図りました

素材がデータベース化されたことで、従来の営業担当が布地を提案するというスタイルから、顧客自身がデータベース上で商品検索を行うことが可能となり、営業の負担を軽減する効果が期待されます。同時に検索データを集積することで、顧客のニーズの把握やデータに沿った商品開発が出来るようになります。

また縫製の工程が自動化されれば、播州織業界、およびサプライチェーン全体の生産性を向上させることが出来るとも期待されています。単なる企業内のプロセスや製品開発に留まらず、その効果が業界全体に波及するという点は、まさにデジタルイノベーションの好例と言うことが出来るでしょう。

※参照:経済産業省説明資料 ~サステナブルファッションに関する取組の進捗~

リハビリロボット事業による生産性・健康寿命の革新

ロボット製造事業を展開する(株)松屋アールアンドディと、岩手県でリハビリ施設運営等を行うロッツ(株)の事例では、リハビリ用ロボットの開発と導入による生産性の向上、および利用者の健康寿命の延伸が図られました

(株)松屋アールアンドディが開発したリハビリロボット「Luna EMG」は、それまでデジタル化出来ていなかったリハビリテーションに表面筋電計や各種センサーによる客観的・定量的な評価を持ち込み、リハビリテーションにおけるDXを実現。個々の利用者に応じた効率的なリハビリテーションが可能となりました。

ロボットによるリハビリテーションはゲーム感覚で体験することが出来ながら、科学的根拠に基づいてプログラムを進めることが可能であり、試験導入されているロッツ社の施設でも非常に好評を博しているそうです。

※参照:多機能リハビリテーションロボット Luna EMG

デジタルイノベーションで社会が変わる

先述「地域新成長産業創出促進事業費補助金」に採択された事業の中には、他にも地域活性化や漁業、スポーツクラブ運営などあらゆるジャンルにおけるデジタルイノベーションが並んでいます。

デジタルイノベーションには、リソースの確保や既存の組織との調整など課題はありますが、上手くいけばそれまでデジタル技術とは無縁だった領域にも劇的な変化をもたらすことが可能です。『うちの業界はアナログだから』と思っている会社ほど、実はデジタルイノベーションを試みるメリットが大きいかも知れませんので、是非考えてみてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です