文化財のデジタルアーカイブとは?意義、事例を紹介

文化財のデジタルアーカイブとは?

デジタルアーカイブは、今や企業のブランディングや研究・教育を目的としたものなど様々な用途で構築・公開されています。しかし皆さんのイメージに最も近いデジタルアーカイブは「文化財のデジタルアーカイブ」ではないでしょうか。

美術館や博物館に収蔵されている文化財は、デジタルアーカイブに掲載することで様々なメリットを享受することが出来ます。ユーザーである私たちも同様、デジタルアーカイブ化されていることで得られることがあります。

今回は、文化財をデジタルアーカイブ化する意義、その事例などについて解説していきましょう。

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 文化財とは?

そもそも、文化財とは何でしょうか?日本の法律である文化財保護法の第2条第1項によると、文化財は次の6種類に大きく分けることが出来ます。

  • 有形文化財
  • 無形文化財
  • 民俗文化財
  • 記念物
  • 文化的景観
  • 伝統的建造物群

端的に言えば、絵画作品、文書、城跡などの有形物から音楽や演劇などの無形物、果ては海岸や山々などの名勝地とされる自然景観まで含まれるのが文化財です。このうち重要なものを国が指定・選定・登録し重点的に保護しており、重要文化財などとして私たちに知られるようになっているのです。

 デジタルアーカイブとは?

デジタルアーカイブは、元々「保管」を意味していたアーカイブ(Archive)に「デジタル」を冠していることからも分かるように、デジタル化された資料を保管すること、またはそのアーカイブシステムそのものを指す言葉です

その仕組みは個々のアーカイブによって異なりますが、文書や絵画作品などをデジタル化し、その画像データをデータベースへアップロード→アーカイブシステムとして一般向けに公開するというのが最も一般的なデジタルアーカイブでしょう。ただし近年はメタバースやVRといった技術の登場により、デジタルアーカイブ自体も大きく進化しています。

 文化財をデジタルアーカイブ化するメリット

今となっては様々な分野で活用されているデジタルアーカイブですが、とりわけ文化財を収蔵・公開するものには大きな意義があります。以下に見ていきましょう。

 文化財へのアクセスの向上

デジタルアーカイブそのものの大きなメリットとして、公開されていれば全世界からアクセス出来ることが挙げられます。従来、その文化財を具に見たければ現物のある場所へ赴く必要がありましたが、デジタルアーカイブとして公開されていればPC画面などで簡単に閲覧することが可能です。「一点もの」のデメリットである地理的な制約を乗り越え、多くの人々が文化財に触れることが出来るようになります。

デジタルアーカイブ用のスキャナーは画質が極めて高く、また最近では3Dスキャナーの登場により、画面上でも立体物として文化財のスキャンデータを見れるようになっています。さすがに現物には届きませんが、それでも遠隔から貴重な文化財に親しむことが出来るのは、デジタルアーカイブの代表的なメリットと言うことが出来るでしょう

 研究や教育目的での活用

アクセス向上によりあらゆる人が文化財を知ることが出来るようになりますが、そのメリットを最大限活用し恩恵を受けているのが教育分野です。

デジタルアーカイブは、研究者や学者にとって重要な情報源となります。オンラインでアクセス出来る文化財のコレクションを通じて、研究対象の文化財や資料に関する情報を容易に入手出来るため、研究活動の効率を大きく改善することが可能になります

また専門家に限らず、学校の授業や生徒の学習においても大きな役割を果たします。地元の文化財を知ることは、すなわち地元の文化や歴史を知ること。小学校や中学校の授業で学校に居ながら、あるいは自分の部屋から地元の文化財を深く知り、学ぶことが出来るようになります

例えば千葉県大網白里市では、公営の博物館に代わってオンラインのデジタルアーカイブである「大網白里市デジタル博物館」を開設・公開しています。この中に「子ども考古学教室」という小学6年生向けに作成された学習コンテンツが設置されており、大網白里市の出土品コレクションを見ながら、その時代の地元の歴史を学ぶことが出来るようになっています。このように、デジタルアーカイブは小学生から研究機関の専門家まで、幅広い層に研究・教育目的で使われることが可能なのです。

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劣化の防止と保存

文化財は経年劣化と切り離して考えることが出来ません。湿度が高く、災害が発生しやすい日本では度々、カビや湿気による資料原本へのダメージや台風・火災による原本の紛失などのリスクがつきもので、実際に一部または全部が失われてしまった文化財も無数に存在します。

デジタルアーカイブを作ればリスクが無くなる、という訳ではありませんが、少なくとも軽減することが出来ます。例えば劣化が進み修復が必要が文化財は表に出さず、代わりにデジタル化したデータを公開すれば、一般の方に文化財を公開しつつも別の場所で現物を保存することが可能です

デジタルアーカイブの事例

最後に、文化財を収蔵しているデジタルアーカイブをいくつか紹介しましょう。

奈良県立図書情報館 まほろばデジタルライブラリー

奈良県奈良市内にある奈良県立図書情報館では、読書会やワークショップなどのイベント開催、奈良の情報を集めた資料の閲覧など様々な活動が展開されている県営の施設です。

この図書情報館のWEBサイト内に「まほろばデジタルライブラリー」というコンテンツが公開されており、総計何と5万点を優に超える(※2024年3月時点)文化財が掲載されています。

掲載されている資料は公文書を中心に、新聞、絵図など奈良県内の貴重資料ばかり。それぞれ刊年や詳細な資料の解説といった細かい情報が付記されています。大半を占める公文書は画像がありませんが、絵図等は高解像度でのスキャン画像が公開されており、何倍にもズームインしてその筆致や色彩を楽しむことが出来ます。

奈良県は言わずと知れた日本屈指の古都。その長い歴史の中で作成された各種貴重な文化財を、是非お手元のデバイスから見てみてはいかがでしょうか。

※参照:奈良県立図書情報館 まほろばデジタルライブラリー

富田林市文化財デジタルアーカイブ「おうちdeミュージアム」

大阪府富田林市には江戸時代から続く寺内町(※仏教寺院を中心に形成された集落)が存在しており、文部科学省の定める「重要伝統的建造物群保存地区」にも指定されている程の”町の文化財”。江戸時代の家屋や寺社仏閣の建造物など、個々の建物も重要文化財や指定文化財として登録されています。

同市では、「おうちdeミュージアム」と題した富田林市のデジタルアーカイブを公開しています。例えば重要文化財として指定されている「旧杉山家住宅」は映像記録や3Dデータ化されたVR対応のコンテンツが掲載されており、町の歴史と合わせながら文化財を最新技術で体験することが出来ます

他にも、古墳時代の出土品や町内の絵図などが美麗な画像データで公開中。江戸時代はもちろん、それ以前の土地の歴史を深く学ぶ上で最適なデジタルアーカイブとなっています。

※参照:富田林市文化財デジタルアーカイブ「おうちdeミュージアム」

大網白里市デジタル博物館

以前別の記事でも紹介した「大網白里市デジタル博物館」は、単なる文化財のデジタルアーカイブ化以上の意味を持っています。

太平洋側に位置する・千葉県大網白里市では、長らく公営の博物館や美術館が存在してきませんでした。つまり市民や観光で訪れた方が地元の歴史を学んだり、出土された文化財へ触れることが難しいという状況が続いていました。

そこで同市が採ったのが、新たに施設を建設するのではなくインターネット上にデジタルアーカイブを開設し、そこにデジタル化された各コンテンツを掲載するというものでした。

「大網白里市デジタル博物館」は2018年にオープンし、旧石器時代から近現代の出土品・文化財が多数公開されています。一部収蔵品は3Dデータや動画の形でも公開されているほか、先述した小学生向けの学習コンテンツ、更には街を歩きながら連動して楽しめるウォーキングマップなど、最新テクノロジーを使いつつ地域活性化の促進や郷土史を学ぶ機会を提供しています。文化財の保存や記録に留まらない、デジタルアーカイブを活用したケースと言うことが出来るでしょう

※参照:大網白里市デジタル博物館

文化財をデジタルアーカイブで守る・活かす

今回は文化財とデジタルアーカイブの関係について解説しました。

富田林市や大網白里市の例で出たように、近年のデジタルアーカイブは従来の”画像の一覧が載っている”ものから、3Dデータ、VR、動画コンテンツなど最新テクノロジーを取り入れた様々な体験が出来るシステムへと進化しています。文化財という、なかなか気軽に触れることの出来ない資料と”ユビキタス”なインターネットを用いたアーカイブシステムは非常に相性が良く、今後も色々な文化財をデジタルアーカイブで楽しめることが期待出来そうです。

デジタルアーカイブを使えば、文化財を”守りながら活かす”ことが出来ます。地元の貴重な資料や資源が失われないようにする上でも、デジタルアーカイブの存在感は非常に大きくなっていると言えるでしょう。

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