伝統工芸品の後継者不足の理由は?解決に向けた取り組みも紹介
日本で長年作られてきた伝統工芸品。各土地の資源を生かしながら、そこに住む人々の生活や文化を反映した唯一無二のハンドクラフトである伝統工芸品は、国内のみならず海外でも高い人気を誇っています。
ところが、現在この伝統工芸品を作る職人の不足、つまり後継者不足が深刻な問題となっており、伝統工芸品そのものの消滅にも繋がりかねないほどの事態に陥っています。人気がありながら何故、後継者が不足しているのでしょうか。
今回は、伝統工芸品の後継者が不足している理由・背景とそれを解決する取り組みについて解説していきます。
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目次
伝統工芸品とは
伝統工芸品とは、陶磁器や漆器、織物など、職人によって作れその土地で古くから使用されてきた日用品のことを指します。
ただし法律上「伝統工芸品」という概念は無く、代わりに伝統的工芸品という名称で「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に登場しています。定義をおおよそまとめると【その土地の素材を使ってハンドメイドで作られたもので、基本的に日常生活で使われるもの】といったところでしょうか。おおよそ皆さんが「伝統工芸品」と聞いてイメージするものと近いのではないかと思います。
⇨【関連記事】伝統工芸品って何?魅力や工芸品の実例をわかりやすく解説!
伝統工芸品の詳細については上記事に譲るとして、今回はその担い手が不足している理由を掘り下げていきます。
後継者が不足している背景
経済産業省製造産業局伝統的工芸品産業室の報告によると、伝統的工芸品の生産額は20年以上右肩下がりであり、生産額程ではありませんが従事する従業員数も減少傾向にあります。
※参照:総務省 結果報告書_第2-4
現役の職人数も2008年以降、下落の一途を辿っています。一方で女性の伝統工芸士割合は増加傾向にあり、各地で活躍が見られますが、それでも全体の職人数減少を食い止めるほどの勢いはありません。
なぜ、これほどまでに後継者が減少しているのでしょうか。前提として、少子化により後継者の絶対数が減少していることは大きな影響がありますが、それだけではありません。
人々の嗜好の変化
伝統工芸品が当たり前のように使われていた時代と現代で決定的に異なるのは、工場で大量生産された安価なプロダクトがあるかどうかです。
伝統工芸品は一つひとつが職人による手作りなので、工場で大量に作る、ということは出来ません。その代わり伝統工芸品には「修繕しながら使う」「劣化した部分も味わいとして残し、使い続ける」という精神があり、こうした部分が現代でも伝統工芸品が支持される理由の一つでもあります。
しかし現代において、やはり安い・身近で購入できる・機能性があって使いやすいなどの要素は購入のモチベーションとして重要です。修繕しながら使うというのも手間でお金もかかるため、壊れたら新しいものを買うという考え方が選ばれる傾向にあります。
こうした大量生産・大量消費のトレンドに呑まれ、職人による一点ものである伝統工芸品は売れなくなってしまった背景があります。
雇用する財力が無い
とはいえ、女性の担い手が増えていることからも分かるように後継者自体が居ない訳では決してありません。しかし後継者になることを希望する人が現れた場合でも、また難しい問題が存在します。
前項に関連しますが、売上が少ないと事業者としての運営に支障が出ます。代表的なものが雇用で、仮に希望者に職人の技術を教えたくても、そもそも雇用するだけの経済的な余力が無いのです。
「手に職」という言葉がありますが、職人を生業とすること自体が難しくなっているのが、現在の伝統工芸品を取り巻く状況です。
原材料や用具も不足している
売上が少ないということは、生産する伝統工芸品も少ないということ。生産量が少ないと当然、伝統工芸の制作に使用する原料やそのための用具類の購入も滞ります。
こうした状況が続くことで、実は伝統工芸品の後継者だけでなく原材料や用具類を生産する事業者も減少しています。そのためいざ原材料を調達しようにも、その確保が困難な状況になっているのです。伝統工芸品の需要や発注が生まれても、それを作るための材料が手に入らない、ということはそのまま売上の機会損失になります。
このように伝統工芸品の後継者不足は、需要不足、事業者としての財力の問題、そしてサプライヤーの減少などが負の循環となって長い間続いているのです。
後継者不足を解決する様々な取り組み
現在、こうした後継者不足を解決するための様々な取り組みが、官民問わず行われています。
各地方自治体による育成事業
伝統工芸品は各地を代表する貴重な文化であり、それらを守ることは各自治体にとって非常に重要です。そのため、各地方自治体や行政法人によって伝統工芸品の育成事業が行われています。
例えば京都市では、毎年独立行政法人京都市産業技術研究所によって「伝統産業技術後継者育成研修」が提供されています。ここでは西陣織、京友禅、京漆器など京都を代表する伝統工芸を数ヶ月〜1年程度かけて学ぶことが出来、修了後はそのままプロの職人として活躍する方も出るほど本格的な技術を習得することが出来ます。
研修費は自費ですが、修了後の販路開拓までサポートしてくれるという魅力的な研修。毎年およそ100名程度の修了者を輩出しているそうです。
※参照:伝統産業技術後継者育成研修
ニッポン手仕事図鑑
ニッポン手仕事図鑑は、株式会社ニッポン手仕事図鑑によって運営されるWEBサイトです。日本全国の伝統工芸品とその職人、そしてそれらをめぐるストーリーがハイクオリティな動画で紹介されており、2024年3月時点で100を優に超える動画がサイト内で公開されています。一部外国語に翻訳された動画もあり。
注目すべきは、同サイト内で公開されている「伝統工芸インターンシップ」。これは全国の伝統工芸の工房で若者がインターンシップとして数日間、体験出来るというもので、伝統工芸品の後継者確保に悩む職人と、職人になることに興味がある学生や若者をマッチングするサービスです。
2022年度にはのべ440名以上の参加希望者の応募があり、その後何とインターンシップを開催した全ての工房で後継者が誕生するという素晴らしい成果を上げています。
なお、応募倍率の平均は25.6倍(2022年度実績)ということで、いかに伝統工芸品へ携わる仕事に興味がある方が多いか伺えます。職人・後継希望者どちらにとっても非常に有益なサービスと言えるでしょう。
DenPuku
発達障害の方を対象とした人材紹介事業や就労支援事業を展開する株式会社Kaienでは、新規事業として障がい者の方に伝統工芸品などの産業に従事してもらう「DenPuku」を始めました。語源となった「伝福連携」も同様の意味で、後継者不足に悩む伝統工芸産業と就職先に困難を抱える障がい者が手を組むことですが、Kaien社は発達障害の方の特性を活用し、よりビジネスに寄った事業を展開しています。
伝統工芸品に携わる=職人を目指す、という形になりがちですが、「DenPuku」ではまず企業のノベルティづくり、つまり伝統工芸ではあるものの、商品企画や制作といったビジネス的視点が求められる活動からスタートすることになっています。
発達障害者が持つ発想力の豊かさや自分のペースで進めることへの適正などの「強み」と、伝統工芸の継承、そして企業の商品開発という「三方よし」な事業と言えます。
※参照:株式会社Kaien
伝統工芸品を認知拡大/教育に使える!
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伝統工芸品の担い手に注目
今回は伝統工芸品の後継者不足、そして後継者不足の解決に向けた官民の活動について解説しました。
残念ながら伝統工芸品の担い手不足は何十年も続いており、中には1事業者しか受け継いでいないという伝統的工芸品も存在します。大量生産品の安さ、便利さに慣れてしまったライフスタイルに、伝統工芸品を積極的に取り入れることは難しいかも知れません。
しかし、女性や障がい者による継承、最近では海外からも体験に工房を訪れる方が続くなど、21世紀に入り伝統工芸品は新たな局面を迎えています。今後も新たな担い手の参入によって、現代のライフスタイルや需要に合った新しい伝統工芸品が登場することを期待していきたいですね。
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