アマゾンPODについて徹底解説!

アマゾンPODとは

アマゾンPODとは、アマゾンジャパン(Amazon.co.jp)が2011年4月19日に開始して話題を呼んだ、アマゾン独自で打ち出したプリントオンデマンドサービスのことです。PODというのは、「Print On Demand」を略した専門用語で、一般的には「オンデマンド印刷」と呼ばれています。

これを見ると、アマゾンは印刷業務も開始したのか、と思われる方もおられるかもしれませんが、そうではなく、アマゾンがPODで提供を開始したサービスは、書籍の印刷・製本・出荷を行うという独特のプログラムによるものです。それまでアマゾンでは、書籍に関しては、一般流通されている書籍の販売とKindleという電子書籍サービスの提供を行ってきましたが、POD(プリントオンデマンド)という方法を採用することで、アマゾン独自の書籍づくりと販売の展開も可能になったということです。

今回は、このアマゾンPODを取り上げて、いろいろな観点から、PODについて考察していきます

プリントオンデマンドとは?

そもそも「プリントオンデマンド(POD)(オンデマンド印刷)」は、どのような印刷技術を用いた方法なのでしょう。またいつ頃から利用されるようになったのでしょう。

以下では、プリントオンデマンドに関して、そのような基本的な情報について説明します。

意味

PODとは

「オンデマンド」は英語の「on demand」からきている言葉で、「必要に応じて」とか「要求があり次第」という意味です。つまり、「プリントオンデマンド」とは、「必要なデータを必要な時に必要な分だけ印刷する」概念を表すと同時に、レーザープリンターやインクジェットプリンターなどのデジタル印刷機を利用して行う即時的な印刷の工程を意味する言葉です。

従来のインクを版につけて紙に転写する「オフセット印刷」とは違って、コンピューター上で、版を使わずに印刷する方法から「無版印刷」と呼ばれる場合もあります。それこそ、データさえあればすぐに、1部からでも印刷できるという、いわば注文印刷のことです。

誕生・浸透度

書籍

オンデマンド印刷(プリントオンデマンド)に向いている印刷機「オンデマンド印刷機」で、世界ではじめて発表されたのは、1990年に入ってからです。まず、1990年に、印刷機上で刷版を作成するGOT-DIという印刷機がドイツHeiderberg社から発表されました。次いで、1993年には、液体トナーを使うフルカラーのデジタル印刷機が2種発表されました。イスラエルIndigo社のE-Print 1000とベルギーXeikon社のDCP-1です。Xeikon社のDCP32/2は、規格外のサイズや形態や材質の印刷が可能であり、それこそ1台で多様な印刷を行うことができたマルチプリンターで、当時画期的であると注目を浴びました。

このようにして、それまで「印刷機」と「プリンター」という2つのカテゴリーから成る印刷市場に、新たに「オンデマンド印刷」という概念が生まれ、その市場が加わることになります。

日本においては、1993年にXeroxがDocu Techを発表し、また上記の商用フルカラーデジタル印刷機が1995年に発売されたこともあって、オンデマンド印刷は印刷の主流として広く普及して印刷業界に急速に浸透していくものと予想されました。ところがそういった予想に反して、オンデマンド印刷は、小ロットでも印刷できるといったメリット以上に、印刷機の動作の安定性、印刷の速度、印刷の品質、コストパフォーマンス、利用できる用紙などに問題が見られて、思ったようには普及も浸透もしなかったようです。

しかし、2000年に入って、プリンター業界の各社が参入し、それぞれの企業努力のおかげで、動作の安定性や印刷の速度・品質などの問題がクリアされはじめ、用紙だけでなく、それぞれの印刷メディアの需要に応じた機種が開発されるようになります。そしてこれを機に、再びオンデマンド印刷が注目されるようになります。

さらに、オンデマンド印刷の強みである小ロットの印刷に加えて、データをデジタル化するという方法により、従来の印刷方法で印刷するとなると大変な作業を伴うような印刷物も容易に取り扱うことができるということで、特殊な分野での需要が高まっていきます。例えば、学術書や専門書、自費出版など、部数を多くさばくことができない書籍や資料を印刷したり、絶版本の復刻版を個人ベースの要求に応じて印刷するなどです。コンピューターが普及した現在、このオンデマンド印刷、つまりプリントオンデマンドは、こうした小ロットでの印刷市場において、急速に浸透しつつあると言えるでしょう。

POD出版とは

本とタブレット

POD出版とは、プリントオンデマンド(オンデマンド印刷)によって紙ベースの書籍を出版(印刷・製本・出荷)することです。

出版社が行う企画出版などの従来の出版方式では、最低でも1,000部や2,000部などの単位で印刷・製本・出荷が行われます。

これに対してPOD出版では、1部からでも印刷・製本・出荷が可能です。つまり、必要な数だけ出版することができるということです。

以下にPOD出版のメリットを挙げます。

  • デジタル印刷なので、印刷にほとんど時間がかからない
  • 必要な数だけ出版すればいいので、コストを抑えることができる
  • 必要な数だけ出版できるので、在庫を抱える必要がない

では、POD出版にはデメリットはないのでしょうか。実は、PODでは、デジタル印刷機を使用するために、インクではなくトナーを使って印刷をします。そのために、インクを使って印刷する従来のオフセット印刷と比べると、やや印刷の品質が安定しないという問題が生じる場合があります

また、従来の出版方式の場合、量産効果、つまり部数が増えるごとに1部当たりの単価が下がっていくというメリットがありますが、POD出版の場合は、1部でも100部でも、1000部でも、1部当たりの単価は変わりません。こういったことがPOD出版のデメリットであると言われています。

アマゾンPODとは

では以上を踏まえた上で、アマゾンが提供するアマゾンPODについて詳しく見ていきましょう。

基本情報

本

冒頭でも述べているように、アマゾンPODは、アマゾンジャパンが2011年にはじめた、プリントオンデマンドサービスを利用した紙ベースの書籍の出版プログラムです。印刷・製本・出荷を一括でアマゾンが行います。しかも、希望があれば、アマゾンで流通販売まで請け負ってくれるというプログラムです。

画期的なのは、アマゾンに流通されることで、その書籍はアマゾンの商品ページに常に「在庫あり」と表示されることです。これはどういうことかと言うと、読者がその書籍を申し込んでから印刷・製本が開始するために、「品切れ」がないということです。これぞ、まさしく、プリントオンデマンドならではのサービスだと言えます。

ただし、アマゾンPODのプログラムに参加するには、アマゾンと正式に契約を交わしている正規取次店を介して登録し、手続きを進めていく必要があります。つまり、個人であろうと企業であろうと、アマゾンと直接契約を交すことはできないということです。

アマゾンPODの正規取次店は、以下の企業のみとなっています(2019年9月現在)。

  • 株式会社 学研プラス
  • 株式会社 モバイルブック・ジェーピー
  • 株式会社 メディアドゥ
  • 株式会社 インプレスR&D
  • ゴマブックス株式会社
  • 株式会社クリーク・アンド・リバー社
  • 一般社団法人日本図書館事業協会

アマゾンのPODページより) 

以下に、参考までに、正規取次店を介して参加するアマゾンPODのアウトラインを示します。

  1. アマゾンで出版・販売を行う
  2. アマゾンへの登録料・使用料は無料
  3. 販売価格を自由に設定できる(売上から取次店への手数料や印刷費を支払う)
  4. アマゾンの電子書籍Kindleとのリンクも可能
  5. プロ仕様の出版支援サービスをオプションで利用できる(カバーや表紙のデザインなど)
  6. すべてのジャンルの書籍を出版することができる

(取次店によっては、サービスの内容が異なりますので注意してください。)

いずれにしても、著者は出版したい書籍のデータだけを持っていれば、後は、取次店とアマゾンがすべてを行ってくれます。本はできたものの、どうやって売ればいいのかといった問題に頭を悩ませる必要はないということです。このようにアマゾンPODは個人出版向けのプログラムであると言えます。

実績

本の山

では、このアマゾンPODプログラムでどのくらいの書籍が出版されたのでしょう。

アマゾンジャパンのメディア事業本部事業企画本部本部長の種茂正彦氏によると、「まずは、洋書のサービスからスタートし、その後、日本で出版している書籍へと幅を広げ、2016年からはカラー印刷に対応している。現在、日本では、300万点以上のコンテンツがあり、そのうち9割が洋書になっている。2017年には、サービスを開始した2012年に比べて、21.7倍の売上げ規模となった。書籍事業のなかでは規模は小さいが、大きく成長している事業領域になっている。2018年には、前年比51%増と、1.5倍もの成長を引き続き遂げており、売上げ構成比の30%がカラーコンテンツになっている」とのこと(2018年9月の時点)。

何と5年の間に売上げは21.7倍に増え、アマゾンのオンデマンド書籍コーナーでは300万以上もの書籍が購入できるというのですから、その実績は一目瞭然です。

複数の正規取次店が出版代行をしているために、販売数は調べることはできませんが、以下に、アマゾンPODの正規取次店として契約を締結しているある会社の実績を紹介しておきます。数字はどれも、2018年9月末時点でのものです。

  • 累計販売数:30,000冊を超える
  • 登録ユーザー数:1,000名を超える
  • 出版点数:679点

以上の数字を見てもわかるように、アマゾンPODプログラムの需要はかなり高く、これからも実績はさらに上がると考えてよいのではないでしょうか。

アマゾンPODを使うメリット

メリット

ではアマゾンPODにはどのようなメリットがあるのでしょう。

出版社が商業出版(企画出版)で紙ベースの書籍を出版する場合は、利益を出すために最低でも2000部といった数の書籍を印刷しなければなりません。このような大量印刷で利用されているのが従来の「オフセット印刷」です。オフセット印刷の作業工程は、DTP(Desktop Publishing)による版下の作成 → 製版 → 刷版 → 印刷となります。

ちなみに「オフセット」という名前がつけられている理由ですが、「刷版についたインキを、ブランケットと呼ばれる樹脂やゴム製の転写ローラーにいったん移し(Off)、そのブランケットを介して印刷用紙に転写(Set)されるといった、版と用紙が直接触れない印刷方式から、「オフセット」という名がつきました」とのこと(印刷会社WAVE「オフセット印刷とは」より)。

「POD出版とは」でも述べていますが、ここでは、オフセット印刷を利用する従来の紙ベース書籍の出版と比べたうえで、POD出版にはどのようなメリットがあるのか詳しく見ていきます。

POD出版に共通のメリット

1. 初期費用がかからない
オフセット印刷を利用する従来の紙ベース書籍の出版方式では、版の作成費用に加えて、初版の製本単位が2000部、3000部(出版社や書籍の種類によっては数百部)と大量になるために、高額な初期費用がかかります。

これに対してPODは、版の作成が不要なために、データを入稿するだけで印刷・製本作業に入ることができ、しかも、最初は単に書籍のデータを公開するだけです。実際に印刷・製本が行われるのは、該当書籍の購入ページで購入されてからです。したがって初期費用はかかりません。

2. 印刷費用やランニングコストがかからない
POD出版の場合は、購入された時点で印刷・製本・出荷が行われます。それらの費用はその書籍の売り上げから相殺されるために、その都度、余分な費用が発生するということがありません。

3. 在庫を抱えなくてもよい
最初に何百部、何千部も発行するという従来の出版方式の場合、万が一売れ残ってしまうと、その在庫を抱えなければならないという問題が生じます。しかし、PODの場合は、売れた時点で出版すればいいので、在庫を抱えるといった問題はいっさい生じません

4. 変更や改定が容易である
最初に何百部、何千部も発行するという従来の出版方式の場合、万が一、内容に不備があったり更新が必要になったりすると、書籍を回収して訂正シールや正誤表などをはさんで再出荷したり、最悪、刷り直しといった大変な作業が発生します。これに対してPOD出版の場合は、更新済みのデータを再入校し、改訂版といった形で紹介すればいいだけです。

5. 絶版や廃版になることがない
従来の出版方式の場合は、発行元の事情で絶版や廃版になることが多々あります。これに対してPOD出版の場合は、データが残っている限り、いつでも出版することができます。

6. Kindleダイレクトパブリッシングとのリンクが可能
POD出版の場合は、原稿がデータ化されているので、Kindleで電子書籍化することが可能です。またすでに電子書籍化している本があれば、それをPOD出版で紙ベースの書籍にすることも可能です。

アマゾンPODならではのメリット

1. 決済や発送など、販売に関する業務はすべてアマゾンに任せることができる
書籍が購入されるとアマゾンがまず決済を行ってから、印刷・製本を行い、購入者へ発送までしてくれます。しかも、書籍の種類によっては、関東近郊ならば注文したその日には読者の手元に届けられるという迅速さです。

2. 自動的にアマゾンの流通に載ることで広告・宣伝の効果を得ることができる
従来の出版方式や他の個人出版で書籍を発行した場合も、手続きを経ればアマゾンの流通に載せることは可能ですが、アマゾンPODの場合は、「オンデマンド」カテゴリーに自動的に組み込まれて、多くのユーザーの目に触れることが可能になります。

以上が、アマゾンPODも含めたPOD出版のメリットですが、反対にデメリットはあるのでしょうか?

アマゾンPODを使うデメリット

このデメリットに関しても「POD出版とは」で簡単に述べていますが、以下で詳しく説明します。

アマゾンPODも含めたPOD出版に共通して見られるデメリット

1. 印刷の品質が劣る
従来の出版方式のオフセット印刷ではインクを使いますが、PODの場合は、高細密のトナーを使います。オフセット印刷に使用するインクは顔料油性インクで、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4成分)のほかにも、このCMYKで表現できない「特色」と呼ばれる色も使うことができますが、高細密のトナーは、CMYKだけしか使用できません。また高細密のトナーは気温の影響を受けるために色が安定しないという問題があります。

ほかにも印刷する用紙によってはムラが出たりするために、用紙を選ぶ必要があります。

2. 単価が高い
「POD出版とは」でも述べているように、従来の出版方式では、印刷部数が多くなるにつれて単価が安くなるという量産効果が期待できますが、PODの場合は、1部からでも印刷・製本できるということから1冊当たりの単価が割高になります。そしてその単価は、部数によって変わることはありません。

また、PODの場合、カラー印刷にすると、モノクロの約3倍くらいの費用がかかるため、書籍の販売価格に影響が出てきます。

3. ペーパーバック仕様である
PODでは、ペーパーバック、つまりカバーがつかない書籍だけしか作成できません。ただし、PODを扱っている印刷会社やアマゾンの正規取次店によっては、オプションでカバーをつけてくれるところもあるようです。なおPODでは、帯もつけることはできません。

4. 書店には並ばない
PODはネット書店での販売がベースとなっているために、紙ベースの書籍ではあっても、書店に置かれることはありません。

アマゾンPODにのみ見られるデメリット

1. アマゾン以外のネット書店で販売することができない
アマゾンPODでは一般書店に流通させるためのISBNコードの取得は行いません。したがって、通常の紙ベースの書籍の裏表紙についているようなバーコードは印刷されません。つまり、アマゾンだけでしか販売することができないということです。

正規取扱店によっては、オプションで、このISBNコードを取得して、他のPOD取り扱い書店でも販売できるようなサービスを提供しているところがあります。

2. 書籍の価格が印字されない
アマゾンの規定により、アマゾンPODで製本された書籍には価格が表示されません。気にならない人もいるようですが、やはり贈呈品などと違って販売対象の商品であるというイメージを損ないたくない人には気になる点でもあるようです。

そのままスキャンのPODサービス

PODそのままスキャン

当ブログを運営する株式会社誠勝のサービス・PODそのままスキャンでも、POD出版用のデータを作成しています。そのデータを元に、印刷・製本まで行うことも可能で、実際にPOD事業を展開している印刷会社様にも継続的にデータ作成をご依頼いただいております。もちろん、希望があれば、アマゾンでの流通販売のお手伝いもできます。

例えば、絶版した書籍や貴重な書籍をプリントオンデマンドで出版したいといった場合、その書籍をPDFデータに変換する必要があります。その書籍のデータがあれば問題はありませんが、古い書籍などの場合は、データ化が行われていないケースがほとんどです。そういった場合、その原本(底本)をスキャンしてデータ化する必要が生じます。

PODそのままスキャンでは、非破壊スキャンを利用しているため、原本を裁断することなく、POD出版用のデータを作成することができます。

PODそのままスキャンでは、長年にわたって3,000社以上の企業や組織の文化財や貴重な書籍のデータ化を行ってきたという経験と実績を生かして、高品質なデータ化を提供するだけでなく、どこよりもリーズナブルな価格でPOD出版用のデータ化を実現しています。

また、アマゾンPODにも対応することができます。アマゾンPODでの出版は、すでに説明しているように、正規取次店を介する必要がありますが、PODそのままスキャンの(株)誠勝からそういった正規取次店を介して、アマゾンPOD出版を行うことができます。

まとめ

読書

今やPOD出版は、従来の紙ベースの出版と電子書籍に次いで第三の出版と呼んでもよいのではないか、と言われるくらいに市場が拡大しつつあります。中でもアマゾンPODは、巨大なアマゾンの流通システムを利用できるというメリットもあって、利用する人が増えています。

ただ、POD出版といってもやはり個人出版には変わりがないため、読者層が限られている、例えば趣味の本や自分史や自叙伝、研究書や技術専門書などが向いていると言えます。今までは、個人が本を出す場合、高額な費用を払って「自費出版」で実現するしかなかった個人出版の世界ですが、プリントオンデマンドの出現によって、多くの人が出版にチャレンジできるようになったと言えるのではないでしょうか。

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